映画「太平洋の奇跡」撮影 エキストラ出演体験記 その2 (2010月6月12日)

2010年6月25日 | カテゴリー: 活動報告
映画「太平洋の奇跡」撮影 エキストラ出演体験記 その2
(2010月6月12日)

 映画「太平洋の奇跡」の撮影現場を訪問させていただき、エキストラ体験をしてきました。今回はCRJAから5名が参加しました。  朝6時半にラヨーン市内集合だったため、シラチャを5時過ぎに出発しました。さすがに土曜の朝は交通量も少なく、6時には集合場所に到着。映画スタッフは、朝早くから慌ただしく動いておられました。そこから撮影現場へ1時間ほどかけて移動。始めて訪れる映画撮影現場にどきどきしながら足を踏み入れました。撮影場所は、前回と同じくラヨーン県のカンウオン国立公園。撮影場所を数カ所設定し、映画内の場面に合わせて使い分けておられます。今回は、熱帯林の中につくられた小さな集落用のセットでした。といっても、本当に森の中の自然を使ったセットです。

スタッフの方々にあいさつをし、早速衣装合わせです。トレーラーの中にずらっと並ぶ衣装から、タイ人の衣装スタッフが適当なものを選んでくれました。日本映画ですが、タイ人スタッフがたくさん働いておられました。私がいただいたのは、「病気の民間人」の役。当然ぼろぼろで汚れた衣装が手もとに…。それぞれの衣装を着て、顔を合わせたCRJA5人は、お互いを見て思わず吹き出しました。

続いてメイク。メイクスタッフ2人がかりで「病気の民間人」メイクを仕上げていきます。顔だけでなく手足にもしっかり茶色く日焼けした肌をつくり、汚れをつけ、そこから病気の青白さを加えていきます。できたメイクを見合って、また吹き出す5人。靴(地下足袋)を合わせたあと、朝食のおかゆをいただきました。タイ人・日本人合わせて大勢のスタッフをまかなうケータリングスタッフも大変そうです。

食べ終わるや否や名前が呼ばれ、セットのある森の中に分け入っていきます。
CRJA5人は、それぞれ役の場所に割り振られ、出番を待ちます。森の中に当時を彷彿とさせるような空間がつくられていました。そこに群がるたくさんのスタッフ。映画をつくる熱気と緊張感の入り交じった現場です。私は病人役なので、当時のようにテントを張っただけの病院代わりの場所へ。ハンモックのような簡素な汚れたベッドに横たわっていると、当時の人たちはこんな環境で暮らしていたのかと感傷的になってしまいます。突然「こちらのベッドに移って、既になくなった人の役に変更してください。」と言われました。病人役のはずが、死人の役に…。しかし、この変更が私に幸運をもたらすことになるのです。

前のシーンの撮影中、私は、ひたすらベッドに横たわったまま何人ものスタッフに取り囲まれ、「病気の人」から「息絶えた人」に作り替えられていきます。足と頭には、軍事専門スタッフが包帯を巻きつけます。その巻き方も専門的なもの。さらに助監督らしき方から「この包帯は、物資の不足で何度も何度も使いまわした包帯。最後に洗ったのは2週間前の設定で汚して。」といった実に細かい指示が飛びます。それを平然と受け入れ、小道具やメイクスタッフが寄ってたかって包帯の汚れと出血のようすを再現していきます。また「たった今息絶えた人だから」という指示で、霧吹きで顔や服に水をかけられ、臨場感を出します。メイクも、病気の役とはちがって、唇や肌など、血の気の引いていくようすが再現されていきます。エキストラ1人にここまで細かく手を入れてこだわる姿勢に感服です。

前シーンの撮影が終わり、病院シーンの撮影へ。いよいよ出番です。ここでびっくり。何と、私のいただいたこの役、看護士役の有名女優さん(名前はまだ公開できないそうです)に、死亡確認される役だったのです。最初に各役者の動きの確認が行われます。そこでシーンの概要がわかったのですが(それまでエキストラの我々には何もわかりません)、「看護士が慌てて患者に駆け寄り、呼びかけるが既に亡くなっている。首に触れるが脈がない。絶望する…。」というものでした。その患者役をいただいて本当に幸せでした!! ラッキーとしか言えません。とはいえ、その喜び以上の緊張に襲われます。動かなければいいのですが、それがなかなか難しい…。当然呼吸してはいけないので、緊張の中で息を止めること十数秒…。これを本番前の4〜5回のテストで繰り返します。苦しかった…。この4〜5回のテスト、女優さんは1回1回少しずつ違った演技を試みておられました。シチュエーションを考えながらよりふさわしい演技を模索しておられるようでした。合間には、脈の位置を確認するなど、よりリアリティのある演技を突き詰めていました。準備が整うまでの間、一点を見つめて集中するその顔、その目(目の前にそれがあるのですから)には、女優としての魂を感じました。オーラとはこういうものなんだと思いました。いよいよ本番。私はセットの一部になりきることに集中しようとしました。しかし、その女優さんの迫真の演技に圧倒されました。呼びかけながら肩口を叩くその力強さ、耳元に聞こえる演技とは思えない必死さの溢れるセリフや息づかい…。その迫力に何とも言えない、全身が固まってしまうような感覚でした。特にセリフが終わり絶望に拉がれている中、「O.K.」の声がかかるまでの間は、本当に息絶えてしまいそうな感覚でした。2度と無いであろう貴重な経験でした。「O.K.」の後、本番とは全く違ったやわらかい表情の女優さんに「ありがとうございました。」と言葉をかけていただいたときの感動は忘れません。

こうしたシーンを含め、1シーン=数秒から20秒前後のものが、午前中に5〜6シーン撮影されました。数え切れない大勢のスタッフが手際よく動いて撮影されるのですが、たった数秒のシーンを30〜40分かけて撮影していくのです。この日、私たちエキストラは午前中の撮影だけでしたが、夜のシーン撮影のため、撮影自体は日没後21〜22頃まで続けられたようです。我々が現場を引き上げるとき、兵隊役として日本から来ておられた役者の卵の方々は、夜のシーンの撮影に向けて包帯をぐるぐる巻きにされ、「がんばります。」と笑顔を見せてくださいました。これを何ヶ月も繰り返して約2時間の映画が制作されているのです。予想をはるかに超えた撮影作業でした。

私たちが普段観ている映画は、莫大なお金と果てしない時間をかけ、さまざまな分野の数え切れないほどのスタッフの人たちが、その才能や技術と、映画に懸ける並々ならぬ情熱をぶつけ合って、それをかみ合わせて制作されているのだと思い知らされました。今回、幸運にもエキストラのチャンスをいただき、映画撮影現場を体験させていただきました。その場に行かなければ感じたり得たりできない経験をたくさんさせていただきました。滅多にない機会ですので、時間の許す方は、ぜひ参加されることをおすすめします。ただ、熱帯林の中の蒸し暑さと、無数の蟻や蚊(私も本番撮影中にお腹の上を蟻が這っていて困りました)、汚い服装に耐えられることが条件です。

   

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