チョンブリ・ラヨーン地区とEEC
チョンブリ・ラヨーン地区はタイ東部に位置しており、数多くの工業団地を抱えている地区です。この臨海工業地域は80 年代から開発が始まり、域内GDP はタイ全体の15% を超えると言われています。各種製造業の集積が国内で最も進んでいる地域であり、特に日系の自動車産業においては、完成車メーカーのみならず数多くのサプライヤーがこの地域に立地しています。
タイは日系企業の進出の歴史が古く、積極的な外資誘致政策を背景に多くの分野で産業集積が進んでいます。「アジア通貨危機」や「リーマンショック」を克服し、着実な成長を遂げてきていますが、近年は「中所得国の罠」に陥らぬよう新たな戦略が求められていました。
このような中、タイは産業構造の高度化による高所得国への飛躍を目指し、2016 年に新国家戦略「タイランド4.0」を策定しました。この第4次産業革命ともいえる政策ビジョンの中核となるのが、EEC(Eastern Economic Corridor:東部経済回廊)構想です。
日系企業による極めて濃密な集積が進んだ東部3 県(チョンブリ県、ラヨーン県、チャチュンサオ県)を特区に指定し、大規模なインフラ基盤整備と先端産業誘致を目指すEEC は、特定地域の開発という枠組みを超え、「タイランド4.0」実現のための有望なプロジェクトとなっています。
5年で5兆円のインフラ整備
EEC は2016 年6月、タイ国家経済社会開発庁(NESDB)によって提案され、国会の承認を得て開発が開始された国家プロジェクトです。首相を委員長とするEEC 政策推進委員会が組織され、チョンブリ県、ラヨーン県、チャチュンサオ県の東部3県が対象地域に指定されました。
EEC の両輪となるのは、再開発を含むインフラ基盤整備と手厚い恩典を与える政府の投資促進策です。加えて、都市・住宅開発、医療機関整備、観光産業の育成などを含む総合的な地域開発も構想されています。
インフラ基盤整備では、域内はもちろんタイ全土におよぶ物流・交通ネットワークのアップグレードを目的とし、鉄道、港湾、道路、空港の開発を主軸としています。投資促進策では域内に特区が設置され、対象となる高度先端産業には法人所得税の最長13 年間の免除といった、従来よりも充実した恩典が付与されます。これらのプロジェクトでは、当初5 年間で約1 兆7,000 億バーツの投資予算が計画されています。
EEC の先行インフラ整備として、以下5つのプロジェクトが進行中です。
- 主要3国際空港を連結する高速鉄道の建設
- ウタパオ空港の拡張
- MRO(航空機整備)センターの設立
- レムチャバン港第3期開発
- マプタプット港第3期開発
それぞれのインフラは、2022 年から2025 年にかけて完工・利用開始の見込みとなっています。
EECの特別区
EECには特別区が新設されており、科学技術省が運営するEECi(イノベーション特別区)、デジタル経済社会省傘下の法人が運営するEECd(デジタル・パーク・タイランド)、そして航空産業に特化したEEC-A(東部航空都市)の3 つに区分されています。
EECi(イノベーション特別区)は研究開発に特化した経済エリアを創出するため、世界をリードするイノベーションセンターを目指しています。既にラヨーン県内陸部に約480 ヘクタールの用地を確保しており、
①先端農業及び食品 ②バイオ燃料及びバイオ化学 ③高性能バッテリー及び近代交通 ④自動化・ロボット及び人工知能 ⑤航空・宇宙 ⑥医療機器といった重点産業に光を当て、ARIPOLIS(自動化・ロボット・人工知能産業都市)、BIOPOLIS(バイオ産業都市)、FOOD INNOPOLIS(食品産業都市)、SPACE INNOPOLIS(航空宇宙産業都市)からなる革新都市を通じ、産官学及び地域社会、そして内外の研究開発機関との協力を押し進めていきます。
このように、チョンブリ・ラヨーン地区は国家戦略の対象地域として今後ますます注目が集まることが予想されます。
(出所:タイ投資奨励委員会事務局(BOI))